『エッセイで読む 日本の歴史』「縄文人のウンコの化石」(
岩田一平・週刊朝日副編集長)
「日本の厠のルーツは」と、問われて思い浮かぶのは福井県三方町の鳥浜貝塚である。鳥浜貝塚は三方湖の南約一キロ、二つの川の合流点の川底を中心に広がる。縄文人が古代の湖に捨てた膨大なゴミが密封・冷蔵され、腐らず残った「縄文人のタイムカプセル」だ。漆塗りの櫛が朱色をとどめ、木の葉はまるでいま生えていたような緑色をして出土した。
ゴミの中に三千個の糞石があった。
糞石は古代のウンコの化石である。
鳥浜の糞石は五千五百年前を中心に、古いものは一万年前にさかのぼる。なまめかしいアメ色をして出土したものもあったが、空気に触れるやアッという間に褪色したという。
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中野さんは里浜貝塚(宮城県)の糞石から一日分の摂取食品を推測して栄養分析し、現代入と比較した。それによると、総カロリーやタンパク質、脂質、糖質はほぼ現代入並み。ビタミンCをのぞくほとんどのミネラル分は縄文人の方が多かった。何でも食べる生活が栄養のバランスをよくしたのか、縄文人の海の幸、山の幸の豊穣をあらわしているのか。
残存脂肪酸分析は考古学界での普及はこれからというハイテク分析法だが、興味深い。ほかに、糞石に含まれる植物の花粉や寄生虫の卵の検出も研究されている。
千浦さんが糞石にみた縄文人の生活再現の夢は少しずつ実りつつあるようだ。
鳥浜貝塚の三千個の糞石コレクションは若狭歴史民俗資料館の収蔵庫の中で一つ一つ保存用溶液の入ったビンに保管されている。そして、中断した糞石の総合研究を引き受ける千浦さんの後継者が現れる日を待っている。
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